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2010.11.04-11.13
佐藤圭司 Sato Keiji
黒砂
プロローグ
ノスタルジーと言ってしまえばそれだけかもしれない。
でも、僕には避けては通れないテーマだと思た。
それは、発表するとかしないとかではなくて、撮っておかないと先に進めないような気がした。
黒砂
僕が育った町に通る私鉄ローカル線の駅の名は、歴史的に4回変わって今は5番目の名前だそうだ。僕が生まれる前は「浜海岸」と呼ばれ、物心付いたときは「黒砂」という名の駅だった。
その名から容易に想像できるように、その小さな駅は海辺の小さな町に存在した。僕の家から海岸に向ってトコトコと下りていき、砂浜をザックリ掘ると直ぐにアサリがバケツ一杯採れた。そのアサリを剥き身にして、猫のえさにしていた。幼い頃、アサリは猫のえさだと思っていた。
小学生の頃、その海の埋め立てが始まり、海岸は遥か遠くになった。もう黒い砂浜は無い。その代わり果てしなく続く団地が建った。町にある駅の名前は別の名に変わった。
それから「昔」と呼ぶに十分過ぎる年月が過ぎたある日、海岸線に沿って車を走らせていたときだった。見知らぬ小さな町を通過するとき、それは突然デジャビューのように蘇った。幼い頃見た「黒砂」の風景だ。もちろんそこは「黒砂」であるはずはないのだが、懐かしく心地良く暖かい。
長く忘れていた風景を目の前に自分の「黒砂」の記憶の糸を解いた。記憶の中の風景は例えば親に連れられて行った旅行先の風景だったり、明らかに「黒砂」の町では無いのだが僕の記憶の中では「黒砂」というひとくくりの中に存在する。幼い日の僕の記憶は「黒砂」というちいさな駅の名前が象徴となっているのだ。
ずっと忘れていた記憶の中に、忘れてはいけないものがあったのではないのか。写真家は自分の原風景を探す旅に出た。
佐藤圭司 さとう・けいじ
千葉県生まれ
主な個展
2001年 「僕のグラフィティ ~ポップアートな街~」 キヤノンサロン 銀座、仙台、札幌、大阪
2003年 「The Filmed Feeling」 PLACE M
2005年 「Through The Smoked Glass」 新宿コニカミノルタプラザ
2007年 「ノッポの視線」 PLACE M
2007年 「東京シアター」 新宿ニコンサロン
2008年 「東京シアター リアル or フェイク」 新宿コニカミノルタプラザ
2009年 「東京シアター ~R・P・G~」 PLACE M
2009年 「NAWABARI」 PLACE M
2010年 「新宿スターレット★ミ」 PLACE M