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2011.10.18-10.27
安世鴻 Ahn Sehong
魂巫 - 魂を呼び寄せる躍動
朝鮮半島のシャーマニズムは神と人が1つになり遊ぶ空間であり、人が生きるうえで必要な天地人の調和と疎通という情緒を、私たちの心に植えつけてくれる。
ムラに騒々しく鳴り響くチン(鉦)チャング(杖鼓)パンウル(鈴)の音や、恐ろしくも見える神々の絵、赤い衣装に身を包み長刀を振り回しながら、くるくると変わる巫堂(ムーダン)の顔、初めて“クッパン”(祭儀を執り行う場所)を訪れた時、その全てが私にとって居心地の悪い光景であった。その中で長い時間を過ごすうち“クッ”(神霊を降ろす祭儀)を理解し、巫堂の裏に隠された霊魂に会おうと思ったのだ。
人は自分よりも強い力を持つ神に、自身の幸福を叶えるため祈りを捧げる。このような宗教的過程が“クッ”であり、それを執り行う巫堂と神との交わりを通じ、人と神が出会う場所を“クッパン”と呼ぶ。巫堂は一般人とは違い天地神との意思素通が可能で、近しい者では様々な祖先の霊魂とも疎通し、人と繋げてくれる媒介者の役割を果たす。
神降しを終え、神々を迎えた巫堂が霊魂を招く際の動きや形相は、普段の彼女らとは全く異なる。巫堂はそれぞれ異なる神を“クッパン”へ招き、歌や踊りでもてなしながら祭儀を執り行う。そしてそれらを通じ人々を神と疎通させる。 “クッ”が執り行われる間、巫堂を通して多くの神と霊魂が出会い、神の能力を間接的ではあるが見ることが出来た。
くるくると変わる巫堂の表情とその独特な動きからは強い力を感じられる。巫堂が刀を振り回し、鋭く研がれた刀の上に素足で上がる瞬間、神への信頼は絶頂に達する。“クッパン”は天地神と人とが和合する空間となり、神明により人は神に幸福を祈り、神はこれを受け入れる空間となり、それらが繋がるのだ。
写真を始めた頃、そこには精神的基盤が必要だと考えた。そしてその基盤を見つけるため為、朝鮮半島の南を津々浦々まで訪ね歩きながら朝鮮文化に接し、朝鮮半島シャーマニズムの中にそれを見つけ、写真を撮ることの礎としたのだ。
巫堂の踊りやその表情を通して霊魂を見始めると、“クッパン”での撮影はそれまでとはまったく異なる物となった。異邦人でしかなく、対象との疎通と調和が必要だった私には、霊魂の世界に対して混沌を感じる時期もあった。“至誠 天に通ず”― ある時から“クッパン”でシャッターを押す瞬間、作家と巫堂、そして霊魂との共感が生まれ始めた。その全てが交わり霊魂を感じる瞬間、対象に向かってシャッターを自由に押すことが出来たのだ。私と巫堂、そして見えない霊魂たちまでもが調和を通じ1つとなる瞬間であった。
霊魂と人との境界が無理なく繋がる瞬間だ。
2011.10
安世鴻(アンセホン)10月22日(土)トークイベント開催!
会場 : Place M(3F)
日程: 10月22日(土)
時間 : 開場18:30 開演19:00
会費 : 500円
定員 : 60名(要予約) メールにて予約を承っております。(ahn@placem.com)
*当日は会場内設営の為、17:30以降は3階の写真展をご覧になる事が出 来ませんのでご注意ください。
*変更・キャンセルの際は早めにお知らせください。
安世鴻 あん・せほん
韓国江原道生まれ。中学生時代から伝統舞踊である「仮面の舞」を撮り始め、障がい者、日本軍元従軍慰安婦、人権に関わる写真など、社会的マイノリティー層をテーマにドキュメンタリー写真を撮り続けている。その他にも、朝鮮半島の基底を土台とした写真の感覚的基盤を追求するため、巫俗、仏教、民俗などの朝鮮半島における伝統文化を探求し続け、同時に伝統文化に対する知識を深めながら写真作品を制作してきた。2008年以降は、韓国と日本を行き来し、 現在は韓国と日本を始めとするアジアのシャーマニズムを深く追求し、制作を行っている。 個展
2011 「魂巫」-韓国の 霊魂を呼び寄せる躍動 韓国文化芸術委員会主催(東京都 PLACE M)
2010 「海巫」-韓国の豊漁祭 韓国文化芸術委員会主催 (大阪市 ATHENSギャラリー 心斎橋アセンス)
2010 「ウリハッキョ」- 朝鮮民族学校 (愛知県名古屋市 ウィルあいち)
2003 「重重」-中国に残された‘日本軍従軍慰安婦’被害者たちの記録 (ソウル市 alternative space pool)
1998 「花の街の美しい花たち」(全羅北道南原市 実相寺)
グループ展
2010 「解放村」-路地裏 (愛知県名古屋市 ギャラリープシュケ)
2006 「顔の時間、時間の顔」 (ソウル市 Artspace Hue)
2003 「Out Of Favor」グループ展 国家人権委員会主催 (ソウル市 Dukwon Gallery)
1998 「日本軍慰安婦」ハルモニ3人展 (昌源市 新世界百貨店ギャラリー)
1993 「Woori」愛と友人 アジア障害者'愛と友'たちグループ展主催
URL : http://www.ahnsehong.com